第五章 民間信仰

第一節 概説

 種々多様の民間信仰はいつの時代に生まれたかその起源はわからないが、村々に偶発孤立的に発生したものではなく、行者、神人、行脚(あんぎゃ)僧などによってもたらされて土着したか、村人自らの巡遍路によって持ちかえって村に植えつけたものもあると思われる。
 現代のように科学の発達しない未開の時代には、五穀豊穣(ほうじょう)、疫病退散、厄除け、悪魔払い、火伏、盗難、縁結び、身体健全、安産、天下泰平、家内安全等を願い、それぞれの目的の成就を信じ、自然石に文字を刻んだもの、石祠(せきし)のもの、木像、石像などいろいろ形こそ違っても、信仰の偶像を祀り集団で祈念し祭典することが部落中の一致した考えで行なわれ、いずれの部落の行事の内容をみても、ほとんどが類似した行事を行なっている。
 また、この諸行事は日常生活につながり、娯楽と慰安も兼ねて今日一日の無事を感謝し、明日の幸せを願い、親から子に、子から孫にと受け継がれたもので、文化の発達した現在にいたっても、昔の行事の一端がささやかながら残されている。
 今町内にはいろいろな名称による多くの信仰対象があるが、ほとんど管理者もなく放置されている。石祠、石塔など見ると、かつては、神仏の霊感に日常生活を托(たく)した祖先の真摯(し)な信仰が、時に応じて応分の霊力を発揮し、よくこの国土を、この村を、この家を守り遂(と)げてきたものであるということを感ずる。
 路傍の夏草に埋もれた石仏にも、祖先の真剣な信仰の不滅の霊魂がこもっていることを考え、また、一概に迷信だと捨て去ることのできない奇蹟もあり、科学で究明できないこともあるので、祖先の行った尊い行事も今後の研究課題として記録に留めておくべきである。