第十五編 身延町の将来—展望と町勢振興の方向—まえがき将来を予測することは何ごとによらず非常に困難なことであるが、昨今のように変動の激しいわが国経済社会のさなかにあって、町の将来を予測することは一そう困難なことである。しかし、身延町の将来がどのような形に進展するにしても、国の動向に左右されることはいうまでもないことであって、したがって、この面から考えをめぐらしていけば、町の将来を展望し、あるいはその方向を見定めることは困難ではあるが必ずしも不可能なことではないであろう。そこで、まずわが国経済社会の動向であるが、幸いなことに、これについては新全国総合開発計画をはじめ、学者等の意見が多く出揃っているので、これらを参考に取りまとめてみることにした。 第一章 わが国経済社会の動向わが国の経済は、昭和30年代、とくにその後半において世界史上に例をみない高度の成長を遂げ、昭和43年における国民総生産はついに自由世界第2位となったが、今後においても技術の進歩、とくに自主技術の開発によって一層の発展を続け、昭和60年における国民総生産は昭和40年(30兆円)の4—5倍にあたる130—140兆円(昭和40年価格)の規模に達するとともに、ますます国際化・大型化が進行するものと予測されている。このときの国民1人当りの所得は、ほぼ現在のアメリカの水準に当たる90万円程度となるが、わが国の場合下位層の所得上昇率が高いため、現在のアメリカに見られるような上下格差の激しい所得分布とはならず、かなり平準化したものになると予想されている。なお、この所得の産業別構成については、昭和40年における第1次産業13パーセント、第2次産業35パーセント、第3次産業52パーセントの割合が、昭和60年には、第1次、第3次産業が共に減少し、それだけ第2次産業が増加して第3次産業とほぼ同率になるものとみられ、その構成比は、第1次、第2次、第3次の順で5パーセント、47パーセント、48パーセントと予測されている、つぎに、このような所得の上昇は当然消費支出の増大を招くが、消費構造は大幅に変化して、食糧・衣服・住居・光熱費等の生活必需費は現在の85パーセント程度に減少し、逆に、保健・教育・交通・娯楽等の自由選択消費は20パーセント以上増加するが、具体的には1世帯1台当りの自動車の普及が予想される。ことに自由選択消費のうちの娯楽(レクリエーション)・趣味・交際等への支出は、つぎに述べる自由時間の増大等にも影響されて、昭和60年には昭和40年の実に7倍になるものと考えられている。また、国民の生活時間の構成においては、労働時間の短縮によって、自由時間が昭和40年の1.4倍となるが、この自由時間の増大は、交際・趣味・レクリエーションの時間の増大となるものとされている。このうちとくに戸外での交際・趣味・レクリエーションの時間は、都市化による自然との接触がますます貴重なものになる等の理由から、昭和60年には昭和40年の2倍以上に増加し、なかでも能動的なスポーツ・海洋山岳等における自然レクリエーション等の時間は大幅に増えるものと考えられている。 人口については、昭和31年以降1を割っている純再生産率、すなわち、1人の母親が次代の母親となるべき女児を何人生むかの率と、その生んだ女児が母親になるまでの死亡率とによって求めた率(この率が1の場合、人口は増減がない)が、今後における所得水準の上昇、住宅事情等の改善を反映して1.0—1.2程度に回復し、昭和60年の総人口は1億2,000万人—1億2,300万人(昭和40年、9,800万人)と推計されている。しかし、労働人口は、進学率の上昇等の影響によって昭和40年の4,800万人から昭和60年の5,600万人へと、800万人程度の増加にとどまって労働力不足をきたすが、なかでも技能労働者等直接生産に従事する労働力不足はいよいよ深刻になるものと考えられている。また、就業構造は大幅に変化して、農林漁業従事者は500万人を下回り、一方、技術の高度化や情報化社会の進展等に伴う需要増から、ホワイトカラー人口は、現在の1,000万人が1,800万人に増加するものと予測されている。 以上、現在予測されているわが国経済社会の将来像についてその一部を素描したが、これはこれまでの発展の経過からみて、より早い時期に現実のものとなるであろう。 反面、たとえば現在重大な社会問題として解決を迫られている過疎過密の問題が、つい数年前までは議論の課題にすらならなかったことからして、将来、予想を越えた新たな問題が発生してくることも想像に難くない。 しかし、それはそれとして、近い将来このような豊かな社会が現実のものとなったときに、身延町も、果して一般同様に豊かな町になるのであろうか。 そこで、そのことについての展望と、町勢の振興方途について考えてみることにする。 |