第四節 土壌

一、土壌

 土壌の大部分は岩石の分解物からなっている。したがって母岩の種類と、母岩が風化分解をうけるさいに分離する岩石の化学成分が、重要な働きをもっているわけである。身延町の母岩の分布については地質の項で記しておいたが、瀬戸川層群は頁岩、砂岩、粘板岩、珪化された礫岩などからなり、主に千枚化された頁岩や砂岩である。形山層群は砂岩・粘板岩・凝灰岩・安山岩・玄武岩など、主に火山噴出物を主体とした火成岩や凝灰岩や集塊岩であり、西八代層、静川層は頁岩・砂岩・火山堆積岩・礫岩などで、主に砂岩・頁岩である。これらの岩石の風化分解をうけ、生成された土壌は砂質壌土が大部分で一部に粘質壌土もみられる。

二、土壌と林業・農業との関係

 森林は、自然に放置生育している現状であるので母岩の鉱物成分化と森林生育の主要な要素となっている。
 安山岩が風化分解をうけて生成された安山岩質土壌は、植質の土壌をつくりやすく、その多くは火山灰質土壌のように重粘であって、保水力もかなり強い。
 石英閃緑岩は酸性土壌をつくりやすく、粘重な土壌をつくりやすいといわれている。
 一般に花崗岩などの酸性岩の風化土壌ではスギ・ヒノキの生育は不良で、耐酸性の強いアカマツの生育は良好である。閃緑岩・岩・安山岩などの中性岩の風化土壌である方がスギの立地として優れ、さらに玄武岩、輝緑岩などの塩基性岩となるほど立地的価値は高く、また、堆積岩の場合でも粘土質の岩石ほど立地的価値が高く、珪質の岩石ほど立地的価値が低いといわれている。
 この母岩の条件とともに気象的条件・地形・地下水・および土壌湿度などの関係を軽視することはできない。
 このような見地から身延町の造林について一考すると、母岩が主として火山噴出物を主体として、火成岩、凝灰岩や集塊岩・頁岩・砂岩であるので風化土壌としては、中性土壌、塩基性の粘質な土壌ということになる。したがって、土地の立地条件としてはスギ、ヒノキの適地といえよう。それに気象的条件・地下水・土壌湿度を加味して考えると、和田、波木井川以南の多雨地帯としての造林地の現状はうなずけるし、さらに今後の分析的研究のもとに造林育成を考えるべきであろう。
 造林のみでなく、土地の立地条件・湿度・気温などと農業の関係を科学的に研究をすすめ、適地適作の効率の高い農業計画が立てられなくてはならない。

三、地すべり

 地すべりは瀬戸川層地域には多いが新第三紀の分布地域には比較的少ないといわれている。
 一般に地すべりは、地層の傾斜と山腹斜面の傾斜が一致している地帯や地層の軟弱な地帯に多い。
 身延町各地は断層などの破砕帯にそい、小褶曲や小断層がさらに発達し、裂目が生じ風化・粘土化し岩体の破砕が特に著しい地帯に地下水・地上水の要素などが加わって地すべりがおきる場合が多く、火山破砕岩からなるところの崩壊では、大きい岩塊が転落し、押し出されるから局部的な人畜災害もおこす可能性が大である。泥岩地域では泥岩は径1ミリメートル位に細かくわれ、除々に崩壊、軟弱のため豪雨時には一時に押し出される。国鉄身延線や国道52号線がしばしば不通になるのは、この泥岩露出箇所に多い。
 横根付近も地すべりが多いが、この付近は曹長石化作用をうけた玄武岩質凝灰岩からできているので変質が著しく脆(もろ)くてこわれ易い。大きな断層(榧の木断層)がこの付近を通っており、これにより小断層や裂目を生じ、崩れやすい岩石や粘土に地下水の要素が更に加わり、地すべりや山すべりの原因になっている。