第三節 気象と災害

一、風水害

 災害には、地震、暴風、冷害、凍害、早魃(かんばつ)などがある。地震や火山噴火によるものは過去、関東大地震(1923、9、1)や北伊豆地震(1930)の時には、本県にも相当被害があり、富士山だけでも有史以来27回の噴火の記録が残されている。しかし、本町の特殊性として最も注意しなければならないのは風水害である。風水害の大部分は、台風によるものである。特に台風が多く来るわけではないが、地形の関係で洪水が起りやすく、昔から人々を苦しめてきた。本県の大水害の記録は、平安時代初期の歴史に残っているが、大小の水害は数えきれず、明治以後の暴風雨および豪雨の主なものは表1、2からみてもいかに多かったかということがわかる。

  表1  豪雨水害時の降水量
昭41.9
(26号)
36.6
(新潟)
34.9
(15号)
34.8
(7号)
33.7
29.9
22.9
20.10
11.9
3.9
明43.8
明40.8
(5日間)
(7日間)
(4日間)
(2日間)
(8日間)
(3日間)
(3日間)
(4日間)
(2日間)
(2日間)
(6日間)
(5日間)
           
13—20.3
2—15.5
26—299.5
15—180.8
5—1.4
 
           
14—190.5
3—33.0
27—168.3
16—129.5
6— 41.0
 
           
15—110.7
4—35.2
 
 
7— 42.0
 
           
 
6—60.6
 
 
8—131.0
 
           
 
 
 
 
9—252.0
 
           
 
 
 
 
10—187.0
 
観測場所
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(身  延)
(南 部)
(身 延)
(南 部)
(南 部)
(南 部)
(身 延)
(身 延)
(身 延)
(身 延)
(南 部)
(南 部)
計 376㎜
676.4
206.4
389.3
446.9
472.1
321.5
460.5
467.8
310.3
461.8
469.3
   (注)大正時代には大水害はない。

 災害の原因が、本県に接近または通過した台風に基因していることは明らかだが、被害といえば殆(ほと)んどが水害で、強い暴風雨の記録は僅少である。また、風の強い場合には、比較的雨は少ないことが、過去における最大の水害である明治40年や、43年の例からみてもわかる。大水害であっても、暴風の被害は全然なかったことがいえる。
 また、極めてまれな例であるが、明治33年9月の台風では、北西の風が甲府で32.3メートル、県下の倒壊家屋が千余戸であったが、水害はなかった。
 次に表3で戦後における本県関係の主な台風を年代順にあげてみよう。

  表3   戦後の本県に関する主な台風
年 月 日
名  称
被害地域
死  者
行方不明
傷  者
全壊家屋
昭19.9.18 
枕崎台風
全国
2,084
1,046
2,295
23,945
20.10.10
阿久根台風
全国
351
70
184
288
22.9.15
カスリーン
関東・東北
1,077
853
1,547
5,301
23.9.16
アイオン
512
1,956
326
45,077
24.8.31
キテイ
135
479
25
3,027
25.8.3
11号・12号
40
59
764
31
25.9.3
ジェーン
全国
398
141
36,062
17,062
26.10.14
ルース
572
371
2,644
21,527
27.6.23
ダイナ
関東・東北
65
70
28
52
28.9.25
テス
近畿・東海
393
85
2,559
5,989
29.8.18
グレイス
全国
30
33
77
331
29.9.13
ジューン
107
37
31
1,648
29.9.18
ローナ
四国以東
36
24
59
52
29.9.25
洞爺丸
全国
1,361
400
1,601
8,005
31.8.16
パブス
33
3
213
1,864
31.9.27
ハリエット
20
11
41
489
33.7.23
アリス
関東
26
14
64
106
33.8.25
フロシイ
四国・関東
15
30
39
86
33.9.27
狩野川
関東
888
381
1,138
1,289
34.8.14
ジョージア
(7号)
東日本
147
47
1,503
3,297
34.9.26
伊勢湾(15号)
中国以東
4,997
402
38,921
36,134
36.9.16
第二室戸
全国
186
15
3,877
13,294
39.9.24
20号
49
3
540
3,256
40.9.10
23号
62
61
1,096
40.9.17
24、25号
111
565
140
41.9.26
26号
関東
318
796
2,493

 昭和34年8月13、14日の台風は、過去における最大の水害と、最大の風害を同時に起こし、家屋、人命、農産物、山林等に甚大な被害を与えた、本県の水害のはげしいのは地形、地質によるところが多いが、
①河川の傾斜が急で、豪雨時の水流が強勢で破壊力が大きい。
②地質の関係で地盤がもろく、山崩れが起きやすい。
③多くの河川は天井川で、河床が年々高くなり、堤防がその役を果たしにくくなる。
④水系は富士川に集中し、短時間で広はんな地域の水を集め水害を招く結果になりやすい。
 また、山腹の崩壊を防ぎ、出水調節の役割を果たすべき山林も、維新後乱伐され明治40年、43年の大水害をこうむり御料林下腸もあって、はじめて治山、治水、造林の重要性にめざめ、森林の保護育成につとめた結果、表1でもみられるように大正時代にようやくその効果があり大水害がなくてすんだのであるが、第二次世界大戦の結果、戦後の山林伐採は山腹の地はだを露出し、水害の危険が増大し、被害も莫大なものとなった。
 最近の被害の大きかった昭和34年8月の7号台風は、その中心が富士川河口付近(図1)に上陸し、そのまま富士川にそって北上し、猛烈な暴風雨を伴って本県を縦断した台風で、本町での被害は表4のようであり、なお、同年9月、15号台風が、これまた例もみないほどの超大型台風で、主として暴風による被害が大きかった。本町でも表6でしめすように、ことの外被害が大きく、同じ年に県下を2度襲ったのは前例のないことである。
 続いて41年9月の26号台風は、県下に死者、行方不明175人、家屋被害18,400世帯、被害総額275億円にのぼる大きなつめ跡を残し、特に人命被害は県史上空前の数字を記録した。(表9)


  表5
 昭和34年台風15号全県被害
被 害 の 種 別
被  害
人的
被害
死亡
15
負傷者
109
行方不明
建物
被害
全壊
1,034
半壊
2,047
流失
40
床上浸水
622
床下浸水
961
一部破損
21,516
非住家住宅
8,036
耕地
被害
水田・流失埋没
135ha
冠水
1,000ha
畑流失埋没
99ha
畑冠水
266ha
道路損壊
285ヵ所
橋梁流失
86ヵ所
堤防決壊
43ヵ所
山(崖)くずれ
109ヵ所
鉄軌道被害
26ヵ所
通信施設
5,188回線
木材流失
106石
罹災世帯数
4,168
罹災者概数
18,334

  表6
 15号台風本町被害状況
被 害 の 種 別
件数合計
人的
被害
死亡
0
重傷
不明
軽傷
不明
住居の
被 害
流失
2
全壊
55
半壊
95
床上浸水
21
床下浸水
不明


 表7  河川の水位(26号台風)
河 川
場   所
警戒
水位
今回
水位
左記時間
富士川
富士見橋
3.00
3.5
25日午前4時
富士川
月見橋
3.00
3.7
〃   4
笛吹川
うかい橋
2.40
2.93
〃   3
桂  川
強瀬
2.10
5.00
〃   1
芦  川
芦川
2.10
3.70
〃   3


  表8  26号台風雨量および風力・気圧    (その1)
地区
甲府
身延
船津
初狩
精進
雨畑
上九
一色
黒金山
奈良田
連続雨量
mm
179
 
376
297
178
367
295
300
190
312
最大時雨量
mm
41.4
 
82.8
37
63
100
59
55
最大風力
 
8
 
5
10
7
(注)1.連続雨量は21日から25日までを合せたもの。
   2.最大雨量は25日0時30分ら午前1時30分ごろ
   3.風力階級 5=風速8.0〜10.7m   7=13.9〜17.1m
          8= 〃 17.2〜20.7m   10=24.5〜28.4m

                   (その2)
 
船   津
甲   府
最低気圧
880.4mb
973.6mb
瞬間最大風速
南々東40.1m
北東32.7m
最大風速
24.7m
17.5m
最大時雨量
82.8mm
41.4mm
21日からの降雨量
297.0mm
179.0mm

  表9  台風26号 県下の被害  (10.31現在)
   
件数
被害額
土木関係
県営工事
2,031件
千円
5,589,342
 
市町村工事
973
 
1,992,582
 
3,004
 
7,581,924
 
学校被害
 
93校
81,299
農業関係
 
 
4,713,346
林業関係
 
 
10,576,599
商工業関係
 
1,420件
452,144

鉄道不通
中央線 16
身延線 154

  170ヵ所
電信電話
被  害
市内 204
市外 5,112

 5,316回線

人的
被害
死  者
重  傷
141
65
行方不明
軽  傷
34
143
家屋の
被 害

全壊(流失)
床上浸水
一部被害
世帯
311
2,393
3,530

半  壊
床  下

562
11,031
公共建
物被害
全壊(流失)
そ の 他
17棟
183棟
半  壊 15棟

 台風26号の気象概況
 昭和41年9月23日、硫黄島の南東約80キロメートル付近に発生した台風26号は、しだいに速度を早めながら西進、のち北西に進み、24日6時には硫黄島西方約300キロメートルに達して、毎時40キロメートルの速度で北上をはじめた。
 その後勢力を増しながら北上を続け(小型から中型となり速度も60キロメートルとあがる)発生からわずか2日の24日23時頃から静岡県御前崎付近に上陸した。
 上陸後も台風の勢力は衰えず(速度70キロメートルとあがる)25日1時頃から県南部に入り、西北ぞいに西湖−塩山−三富付近を通り埼玉県北部に抜けた。このため、24日23時頃から県下全域にわたって風雨が強まり、25日1時過ぎには暴風雨となった。(注甲府・船津とも1時40分頃最低気圧を観測)甲府気象台は台風接近に伴い24日21時30分暴風洪水警報を発令し翌3時45分暴風警報を解除した。
 台風が県内に猛威をふるったのは約2時間、被害地が実際に暴風雨圏内にあったのは、わずか1時間ぐらいであった。

表10  台風26号 身延町の被害
   (41.9.24〜25)
種     別
件 数
被 害 額



死者
3
 
重傷
3
 
軽傷
6
 

 

 

 
全壊(流失)
24
23,000
千円
半壊
30
15,370
 
床上浸水
171
36,365
 
床下浸水
410
14,400
 
非住家
95
9,770
 
学校
4
2,750
 
公共建物
10
4,650
 
町営住宅
9
3,295
 
土  


  

 
国関 ・

の係
道  路
50
41,400
 
橋  梁
7
79,500
 
河  川
68
154,960
 
砂  防
12
63,000
 

道  路
94
69,023
 
橋  梁
28
13,055
 

河  川
54
135,333
 
林・中間地
39
55,600
 



道  路
32
2,654
 
橋  梁
7
600
 
河  川
4
375
 
農業土木
補助災害
農 地
100
68,235
 
道路施設
149
129,672
 
農  林
水産物
被  害
農産物
29,500
63,975
 
林産物
548
77,661
 
畜産物
1
5,010
 
水  産
1
4,230
 
その他
4
3,140
 
中小企
業被害
商  業
48
21,798
 
工  業
10
18,120
 
合  計  国県を除く
(778,067)
1,116,927






二、地震

 甲府気象台の記録によると、昭和38年から41年までの無感、有感の年平均回数は、人体に感ずるもの22.5回、人体に感じないもの511.8回となっている。
 甲府気象台が地震観測開始以来記録したもっとも強い地震は、大正12年(1923)9月1日の関東大震災および翌13年1月15日の丹沢山地震で、ともに震度は烈震であり県内に被害を生じた。次は、明治42年(1909)8月14日の近江姉川の地震で震度は強震であった。気象50年報によると、身体に相当強く感ずる地震は年1回程度である。

三、その他の災害

(一)雪害
 大雪の害は本町は海岸的気候のため、ほとんどないが昭和44年には春の重い大雪が2度にわたり降ったため、近年稀にみる被害があり、特に7−8年生から15年生の杉、檜に被害が多かった。
 地区別被害状況は次ぎの通りである。

地区名
樹種
人・天別
林齢
被害面積
被害本数
 被害材積
 被害金額
被害名
下 山
杉檜
人工
5—20
72.10ha
1,560本
15.60m3
224,640円
雪折
身 延
42.00
5,189
51.89
747,216
大河内
260.00
119,206
1,192.06
17,165,664
豊 岡
72.00
14,270
142.70
2,054,880
     
446.10
140,225
1,402.25
20,192,400
 
  一石当り4,000円として算定m3当り一4,400円とする。 (役場資料)