(二)参議院議員の選挙制度の変遷貴族院議員の選任方法貴族院は、旧憲法すなわち大日本帝国憲法第34条の「貴族院ハ、貴族院令ノ定ムル所ニ依リ皇族華族及勅任セラレタル議員ヲ以テ組織ス」という規定に基づく明治12年勅令第11号貴族院令によって、皇族(ただし、成年の男子たる皇族)満30歳以上の公候爵、満30歳以上の伯子男爵で、それぞれの同爵の互選によって選ばれた者、国家功労がありまた学識がある満30歳以上の男子で勅任された者、帝国学士院会員中互選された者、多額納税者の互選によって選ばれた者の6種類の者をもって組織されることになっていた、このうち公選というにふさわしいのは多額納税議員であったが、その選挙権は、きわめて制限されていたし、一方では議員数も66人にすぎず全体の5分の1にも足りなかった。したがって旧憲法の下における貴族院については特に語るべき制度はなかったといっても過言ではない。 参議院議員の選挙方法 参議院は、現行の日本国憲法の制定に伴い貴族院に代って設けられたものであるが、その議員は衆議院と同様に公選によるべきことが憲法に規定された結果、同憲法の施行に先立って参議院議員選挙法が昭和22年法律第11号として制定公布され、昭和22年5月3日憲法施行に先立って同年4月20日最初の参議院議員の選挙が執行された。 (三)地方公共団体の議会の議員の選挙制度の変遷地方公共団体の議会の議員が全国的にはじめて公選されるようになったのは、古くは明治11年(1878)の三新法の一つである府県会規則による府県会議員選挙およびこれに準じて行なわれた町村会議員選挙からであるが、わが国における実質的選挙制度は明治21年(1888)の市制および町村制同23年の府県制および郡制の施行からであるといっても過言ではない。その後これらの制度は幾多の変遷を経て現行法に引き継がれている。これらの選挙は、それぞれ別々の法律で規定された後に地方自治法中に統一的に規定されたが、いずれの場合にも衆議院議員の選挙制度が基本となり、衆議院議員選挙法に準拠していた。1 明治21年法律第1号市町村制 選挙権は、年齢25歳以上の男子でかつ、2年以上その市町村の住民であり、そして地租を納め、またはその他の直接国税年額2円以上納めることを必要とした。そして選挙人をその納税額の多小に応じて、市においては3級にわけ、町村においては2級にわけて、各級ごとに議員定数の3分の1又は2分の1を選挙するいわゆる等級選挙制が採用された。しかし投票は無記名投票によった。 2 明治44年法律第68号市制および同年法律第69号町村制選挙権の要件については、格別改正は加えられなかった。投票の方法は従来の通り市は3級、町村は2級の級別選挙制が維持されたが選挙人を各級別にする方法が合理化された。 3 大正10年法律第58号(市制一部改正)および同年法律第59号(町村制一部改正)公民権、すなわち選挙権が拡張され2年以上その市町村において直接市町村税を納めればよいことになった。しかし、級別選挙の制度については、市会議員の3級選挙制度が二級制度に改められ、町村会議員については、級別選挙制度が廃止された。 市会議員選挙における選挙人の級別の分け方を改正して、従来税額を標準にしたのを、直接市税総額の1人当りの平均額をもって1級2級の分別の基準とし、平均額以上納めるものは1級、平均額未満の者は2級とされることになった。 4 大正15年法律第74号(市制一部改正)および同年法律第75号(町村制一部改正)、大正14年(1925)普通選挙法が制定されたのに応じて地方公共団体の議会の議員の選挙権についても、納税要件を撤廃して普通選挙制度が採用され、なおこれと同じ思想に基づいて市の2級選挙(町村会議員についても特に必要があれば2級選挙とすることができることになっていた)を廃した。また市会議員選挙について候補者制度を採用し、それに伴って選挙運動に関する規定に顕著な改正が加えられた。 5 昭和21年法律第28号(市制一部改正)および同年法律第29号(町村制一部改正)、公民権制度を廃止し、6ヵ月以上ひきつづいて市町村の区域内に住所を有している日本国民で年齢満20歳以上の者に対して、男女を問わず選挙権を与えることとし、女子に自治参与の権利を与えるほか、いちじるしく選挙権を拡大した。これは大正15年(1926)普通選挙制度を採用して以来の画期的な改革であった。 6 昭和22年法律第67号地方自治法選挙権の欠格条項を整理して、その範囲を若干拡充し、その他選挙手続に改善を加えたが、特筆するほどのものではない。 都道府県会議員 1 明治11年布告府県会規則 わが国における近代的選挙制度は、府県会規則によってその第一歩が踏み出されたのである。それによると、選挙権及び被選挙権の要件としては、一定の期間居住および納税の事実が必要であったほか、のちの市町村議会議員の選挙のようないわゆる等級選挙の制度をとらず、年齢要件として、選挙権の場合が満20歳被選挙権の場合が満25歳であった。投票は記名式で投票所投票主義をとらず、代人によって提出することをも認めた。選挙区は郡区の区域によることとし、議員任期は4年で2年毎に半数交代選挙であった。選挙運動や罰則の規定は設けられていなかった。 2 明治23年法律第35号府県制 明治23年(1890)の府県制の下においては、府県会議員の選挙権は、市町村会議員のそれと同様であるが、被選挙権の要件は市町村会議員のそれよりもさらに厳重であって、その府県において1年以上直接国税10円以上納めることを必要要件とし、かつ、その選挙は、選挙人の直接選挙ではなくて、郡会及び市会で選挙する複選挙の方法によることを大きな特色とし、したがってまた非民主的として、施行後からはげしく非難される理由となったのであった。 3 明治32年法律第64号(府県制改正) 府県制の全文改正が行なわれ有権者が直接選挙することとされた。しかし選挙権の積極要件は、従来通りであった。投票の方法は、衆議院議員の選挙に先んじて単記無記名投票が採られた。 4 大正11年法律第55号(府県制改正) 選挙権の要件である国税納税額の制限を撤廃して、単に府県内において一年以上直接国税を納めればよいこととし、かつ被選挙権の要件を著しく緩和した。 5 大正15年法律第73号(府県制改正) 府県内の市町村公民が選挙権および被選挙権を有するものとして普通選挙制度を採用したほか、選挙区分の制度を廃止する等選挙手続の合理化を図り、その他、立候補制度、選挙運動の制限および罰則等おおむね今日の選挙制度はこのときに確立されたのである。 6 その他府県制の特例法ともいうべき北海道会法は北海道地方費法とともに明治32年(1899)制定施行され、府県会議員に準じて北海道会議員を選挙すべきことを定め、東京都制は、東京府および東京市を廃止し、あらたに東京都という地方公共団体を創設するものとし、昭和18年制定施行されたものであったが、都議会議員の選挙も府県会議員の選挙と実質上異なるところはなかった。 (四)地方公共団体の首長の選挙制度の変遷市町村長市町村長は、昭和21年法律第28号および29号によって従来の市制および町村制が改正されて、選挙人が直接選挙するいわゆる直接選挙の方法によって選任されたことは周知の通りであるが、この市町村長の選挙制度は選挙権・投票の方法・選挙運動等議員の場合と大差ない。 都道府県知事 都道府県知事は、古くは地方長官として政府の任命する官吏であったことは今日なお多くの人々の記憶に新たな通りである。昭和21年法律第26号東京都制の一部を改正する法律によって、身分は官吏とされたが、その都道府県内の市町村の議会議員および長の選挙権を有するものが、直接選挙した者について任命することとして、知事公選の世論と地方分権の要請に応えたのであったが、地方自治法によってその自分は純然とした都道府県の公務員とされたのであった。 |