第四節 被保険者と保険給付

一、被保険者

 国民健康保険への加入については、以前は任意加入であったが、昭和23年の法律改正により、強制加入の原則がとられるようになり、また国保の被保険者が、他の社会保険などと二重加入が認められていたことも、昭和36年3月に廃止された。
 現在は、新国民健康保険法の定めにより、市町村の区域内に住所を有する者は、次に掲げる者を除き、すべて国保の被保険者とされる。
、健康保険法、船員保険法の規定による被保険者とその被扶養者。
、国家公務員共済組合、公共企業体職員等共済組合、地方公務員等共済組合、私立学校教職員共済組合の組合員とその被扶養者。
、日雇労働者健康保険法の規定による被保険者手帳の交付を受け、その資格の取得したものおよびその被扶養者。
、生活保護法による、保護をうけている世帯に属する者。
、国立のらい療養所の入所患者、その他特別の理由がある者で、厚生省令で定める者。したがって、身延町に住所を有し、他の社会保険などに加入していない町民は、すべて、国民健康保険に加入しなければならず、被保険者は、疾病・負傷・出産・死亡などの際保険給付をうける権利がある反面、世帯主は保険税を負担する義務が課せられている。
 あらたに被保険者としての資格が生ずるものは、出産・転入または他の社会保険の資格を失なった場合などであり、反対に、死亡・転出・社会保険への加入などにより、被保険者としての資格を喪失する。
 身延町における被保険者数は、逐年減少を続けており、昭和35年からの推移は別表1のとおりで、8年間に1,640人減少している。
 しかし、町全体の人口も年々減少しているので、全人口に対する加入割合は、急激な変動はみられず、若干ずつ減少しているのは、町外への転出、あるいは、農林業経営などの不安定から、企業就職者が多くなり、企業での健康保険に加入するためと考えられるが、依然として、町人口の過半数を占めている状況である。

  表1  被保険者数の推移
年度 35 36 37 38 39 40 41 42 43
(年間平均)
世帯数
1,823 1,924 1,946 1,894 1,849 1,792 1,780 1,749 1,577
(年間平均)
被保険者数
8,266 8,255 8,053 7,695 7,385 7,113 6,914 6,626 6,335
国保への加入割合
59.87
60.83 60.86 59.58 57.32 58.06 57.00 54.93 57.83

二、保険給付

(一)給付の種類
 国民健康保険で行なう保険給付は、1療養の給付、2療養費、3その他の給付、の3種で、療養の給付および療養費は、法律によって保険者(市町村)に義務づけられている法定給付であり、その他の給付は、特別の理由があるときは、行なわないことができる任意給付である。以下その内容について説明すると次のとおりである。
  ア 療養の給付
 被保険者の疾病および負傷に関して、自己の選定する療養取扱い機関に、被保険者証を提出して医療機関を通して行なう給付でその内容は、(1)診察、(2)薬剤又は治療材料の支給、(3)処置、手術その他の治療、(4)病院又は診療所への収容、(5)看護、(6)移送となっている。ただしこのうちで、(4)から(6)までについては、政令で定める場合および保険者が必要と認める場合に、行なうこととされている。また、給付範囲については、法律改正により入院の際の給食、完全給食、完全看護などの給付が34年から、歯科補てつ(入れ歯)が36年から給付の対象とされるようになった。
  イ 療養費
 次の場合には、療養の給付に代えて、療養費を支給する。
、療養の給付を行なうことが困難であると認めるとき。
、被保険者が緊急その他やむを得ない理由により療養取扱機関以外の病院・診療所・薬局その他のものについて、診療・薬剤の支給もしくは手当をうけた場合で必要と認めるとき。
  ウ その他の給付
 被保険者の、出産および死亡に関して、条例の定めによって助産費および葬祭費が支給される。なおこれ以外にも、保険者において条例を定めて、傷病手当金、保育手当金その他の保険給付を行なうことができるが、身延町では助産費5,000円、葬祭費2,000円が現在支給されている。
(二)給付方法
  ア 療養取扱い機関
 従来知事の指定制であったものが昭和23年の改正により、療養の給付を取扱う旨の申し出をし、受理された病院、診療所および薬局のことをいい、被保険者が疾病・負傷などにより療養の給付を受ける場合は、被保険者証を提出して、原則として療養取扱機関で受けるものとし、療養は都道府県知事の登録をうけた医師・歯科医師・薬剤師が担当する。
  イ 一部負担金
 被保険者が療養取扱い機関において、療養の給付をうける際、その療養に要した費用の3割を、一部負担金として、その取扱い機関に直接支払うものである。
 当町では、この一部負担金の割合は、昭和38年9月までは、全員5割、38年10月より、世帯主のみが3割、41年1月1日、全員7割給付が実施されてから全員3割となっている。したがって、患者が医療機関の窓口に支払う金額は総医療費の3割でよく、残り7割が保険給付される。
  ウ 診療報酬
 保険者は、療養の給付に関する費用を、療養取扱い機関に支払うこととされており、その額は、療養に要した費用額から前記の一部負担金に相当する額を差引いた金額である。この診療報酬の額は、内容別に点数をもって定め、点数および1点当り単価は、法によって定められているが、経済界の変動にともない1点単価も数回変更されて、昭和33年10月以降は、1点単価を10円にすえ置いて、計算を容易とし、診療報酬の変更部分は、診療1件当りの点数を変更して調整をしている。
 医療機関より診療報酬の請求があった場合、保険者は法令の定めによる審査をした上支払うことになっているが、この審査支払い事務を都道府県を区域とする国民健康保険団体連合会に委託することができ、当町はじめ、ほとんど委託している状況である。
 したがって、実際には診療報酬の請求は、医療機関ごと、毎月集計して連合会へ請求書を提出し、連合会で審査のうえ支払いをする。各保険者は、毎月連合会より送付請求される明細書にもとづき、診療報酬に相当する金額を送金している。
 なお当町では、療養費にかかわる請求書も連合会の審査をうけて、そのつど療養に要した費用の7割を、直接役場出納室より支払っている。
(三)保険給付の推移
 医療費の推移
 国民健康保険事業の中核である医療費は、年々増加を続け、昭和42年度における総医療費は、5,680万円余となっている。昭和42年度の被保険者所得金額5億6,400万円に対し、10.08パーセントを占め、1世帯当たり年間約33,000円の医療費をついやしていることになる状況である。このような医療費増は、経済変動・給付改善・健康管理に対する認識高揚による受診率増などの推移にともなって生ずることは当然であるが、近年悪性新生物(癌(がん)・肉腫(にくしゆ)など)による長期入院など、高額医療費が目だっていることも見逃がせない。42年度医療費において、入院1件当たり費用額が県平均を上まわっているのも、これらが大きな要因と考えられる。(表1保険医利用状況参照)この医療費の中にあって、歯科診療の1件当たり費用額は県平均を大きく上まわり、64町村中1位にあるのは特筆すべき傾向で、医療機関が少なく、また早期治療を怠って、病状を悪化させているのではないかと思われ、保健管理上一つの問題を今後に残すといえよう。

  表2  年度別保険給付状況
年度 療養の給付 療養費 助産費 葬祭費 保険給付合計額 1世帯当たり
給付額
1人当たり
給付額
件数 給付額 件数 給付額 件数 給付額 件数 給付額 件数 給付額
35
14,578

7,643,745

523

529,099

116

116,000

64

32,000

15,281

8,320,844

4,564

1,008
36 16,050 10,907,446 486 523,428 99 99,000 55 27,500 16,690 11,557,374 6,007 1,400
37 16,509 13,631,490 495 559,750 104 177,000 70 60,000 17,178 14,428,240 7,414 1,792
38 16,886 16,704,864 422 486,871 93 186,000 74 73,500 17,475 17,451,235 9,214 2,268
39 18,863 19,619,755 314 388,326 82 164,000 70 70,000 19,329 20,242,081 10,948 2,741
40 18,240 24,558,463 313 367,373 98 196,000 53 53,000 18,704 25,174,836 14,048 3,539
41 19,472 35,476,618 346 695,682 49 98,000 48 48,000 19,915 36,318,300 20,404 5,253
42 20,635 38,713,649 396 796,748 59 118,000 65 65,000 21,155 39,692,748 22,695 5,990
43 20,630 42,260,145 435 1,060,974 62 124,000 64 125,000 21,191 43,570,119 27,628 6,878

  表3  身延町における医療費内訳の推移
年度 診療費 薬剤支給など 療養費 医療費合計 1件当り
費用額
1世帯当り
費用額
1人当り
費用額
医療費
上昇率
件数 費用額 件数 費用額 件数 費用額 件数 費用額
35
14,523

15,357,236

55

72,568

523

1,058,243

15,101

16,488,047

1,091

9,044

1,995


36 15,978 21,856,198 72 80,945 486 1,046,882 16,536 22,984,025 1,390 11,166 2,784 39
37 16,366 26,897,785 143 84,305 495 1,119,526 17,004 18,101,616 1,653 14,441 3,489 22
38 16,631 31,374,207 255 208,074 422 955,686 17,308 32,537,967 1,880 17,127 4,228 16
39 18,489 34,970,331 374 340,069 314 708,200 19,177 36,018,600 1,878 19,480 4,877 11
40 17,848 40,463,288 392 515,286 313 640,762 18,553 41,619,336 2,243 23,225 5,851 16
41 18,961 50,757,722 511 441,053 346 994,536 19,818 52,193,311 2,634 29,322 7,549 25
42 19,812 55,057,974 823 673,959 396 1,138,252 21,031 56,870,185 2,704 32,516 8,583 9
43 19,608 59,738,086 1,022 997,089 435 1,515,719 21,065 62,250,894 2,955 39,474 9,825 9
(四)保険給付と財政
 保険給付のほとんどを占める療養の給付、療養費は、給付率の引上げや、前項でふれた医療費増にともない、逐年増加の一途をたどり、別表にみられるとおり、42年度における世帯当たり平均給付額は、22,695円(保険税11,312円)の高額をしめている。これにともない、財政規模も逐年大型化しており、財政運営にあたっては、各市町村とも近年、保険税・国庫負担金などのかねあいから、非常な苦心を続けている状況である。
 国民健康保険事業は、前にも述べたように、特別会計による独立採算制を原則としているので、赤字を生じた場合の補填(てん)は、その会計内で処理しなければならず、保険税引き上げ以外にその方法がないところに、この事業の特異性がある。
 当町における国保財政運営も、近年とくに困難の度を深め、昭和35年度から42年度にかけての8年間、35・39・40・41の4年度、赤字を生ずる結果となっている。昭和40年度は、全国市町村の大半が赤字会計であったため、国においてもこれを重視して、赤字補填(てん)のために特別助成をしているが、それ以外はほとんど保険税による解消を図っている。町村によってはこの赤字を緩和するため、一般会計より繰入金をしているところもある。身延町では、35年度74万円、36年度5万円の繰入れをしているが、以後は繰入れを行なわず、保険税によって調整している。
 このように、医療費は保険給付・保険税の連鎖関係と、低所得の被保険者を多くもつ国民健康保険事業にあっては、財政中に占める保険税が、担税能力の点から、近年とくに問題化されているわけである。

  表4  国保財政の状況
年度 35 36 37 38 39
歳入決算額 10,039,841 14,664,717 16,832,902 19,552,364 21,168,941
歳出決算額 10,494,290 14,153,962 16,561,958 19,390,991 23,532,475
収支差引
454,449
510,755 270,944 161,373
2,363,534
 
年度 40 41 42 43
歳入決算額 29,717,501 37,907,886 45,006,731
(決算見込)
55,526,869
歳出決算額 29,976,022 39,866,396 44,955,557
(決算見込)
47,475,077
収支差引
258,521
1,958,521
51,174
(決算見込)
8,051,792

 国民健康保険事業が、本来の目的にそって、円滑完全に運営されるには、国庫負担率の引き上げ以外にないとして、全国的な運動も進められているがきびしい今後の情勢といわなければならない。