第四節 風水害と水防

 明治31年(1898)9月県下に襲来した大風水害は、維新後30年間の中で最大の被害をもたらしたとあり、当時の山梨県水害史の1節「西八代南巨摩両郡水害実記」を見ると、
 −甲州大平原に環流する大小幾百の河川は悉く西八代南巨摩両郡界に注ぐ、之を漏斗と見れば甲州大平原は之を漏斗の広大なる部分即ち朝顔形を為せる個所と言うべく、笛吹、釜無、芦川三川の合流点は其軸と見るべし。而していわゆる富士川と名づくる処より以下は正に漏斗の最も狭小なる部分とす。されば一朝大出水に遭へば三川合流地点は直に逆流となり停滞となり、富士川は溢れて沿岸の諸部落を侵略するは説を待たざる処とす−
 とあり、古来より峡南地方の住民は、富士川の氾濫(はんらん)により、家屋を失い田畑を流失し、幾星霜にわたる長い苦難に満ちた生活に堪え忍んで来た。
 次に明治年間における水害の状況を伝えるものとして大正年代の三ヵ村の取調書から引用する。
   下山村取調書(大正五年六月二十四日)
 明治三十一年の大暴風雨の時土地の大半を流出す。
水害 明治四十年 大水害
 明治四十二年、四十三年のとき人家流出す。
   豊岡村取調書(大正五年六月二十日)
 明治二十二年以来、波木井川出水のため、小田船原耕地人家流亡の為め現に川敷となり、身延往環大潰壊を来たし、現に路線変更計画中なり。
   大河内村取調書(大河内村長 松野弥三郎 大正五年九月七日)
 古老は子年の大水として伝う。されど明治三十年、同四十年、同四十三年の洪水の如きは遥にそれ以上なりしなり。
 こうした厳しい風土の中で、毎年のように襲来する台風に備え、富士川の大洪水に立ち向い、警鐘一打敢然として水防の任務に挺身した消防組の活躍は、地域住民の災害を防止し、被害を軽減する上に、計り知れぬ大きな功績を打ち立てて来たのである。
 以下本町における風水害の記録と、水防活動のあとをたどってみることとする。

一、本町の風水害と水防活動

 まず明治以来の主たる風水害をあげると次表の通りであり、特に昭和年代においては、昭和34年の台風7号と昭和41年の台風26号の大災害は、本町水害史の中で最も大きな被害をもたらしたものとして、長く記録に残る水害といえよう。

 明治以来の主なる風水害
発生年月日 災   害   状   況
明治8年 富士川増水3メートル 堤防43ヵ所決潰、農産物被害甚大
明治11年 富士川増水3.6メートル 堤防決潰34ヵ所
明治14年 富士川増水4.5メートル 農作物人家被害甚大
明治31年9月 7日マデ3日間豪雨、県下ノ全河川氾濫、明治以降30年間ノ最大ナルモノ
明治40年8月 田畑、人畜、家屋ノ被害甚ダシク、有史以来ノ大被害
明治43年 40年ニ匹敵スル大被害ヲ受ク
昭和10年 富士橋ヲ始メ県下200余橋流失交通途絶、被害額13億
昭和20年10月 マリアナ台風434ミリ豪雨、県下ノ136橋流失、身延橋交通途絶
昭和22年9月 カザリン台風、飯富橋、富士橋流失、土木被害4億6000万円
昭和24年6月、8月 6月デラ台風、8月キテイ台風、コノ年前後4回ノ大洪水起ル
昭和34年8月14日 台風7号県下ニ襲来、富士川増水本町未曽有ノ大災害ヲ受ク
昭和34年9月26日 台風15号(伊勢湾台風)暴風雨ノ被害甚大ナリ

発生年月日 災   害   状   況
昭和36年10月 台風6号襲来富士川大洪水
昭和41年9月25日 台風26号交通機関一切途絶、本町有史以来ノ大被害ヲ受ク


 最近10年間の水害統計                      (町建設課調)
年度別 被害状況 備考
死者(人) 重傷者(人) 全壊戸数 橋道路等 床上浸水 被害額(円)
昭和34 2 3 75 204ヵ所 143戸 644,873,000 国県公共施設災害ヲ含ム
昭和35       1   4,979,000 町施設ノミ
昭和36       157 5 49,000,000 町施設ノミ
昭和37       15   8,007,000 町施設ノミ
昭和38       9   3,777,000 町施設ノミ
昭和39       18   6,686,000 町施設ノミ
昭和40       122   59,716,000 町施設ノミ
昭和41 3 3 24 644 180 126,927,000 国県公共施設災害ヲ含ム
昭和42       - - -  
昭和43       88   58,848,000  

 水防倉庫設置状況および資材の状況  (昭和44年4月1日現在)
河川名 倉庫名 設置場所 資材の状況
鉄線
(㎏)
麻袋又はポリ袋
(枚)
麻ロープ
(m)
蛇籠
(本)
丸太
(本)

(枚)
早川 小原島水防倉庫 身延町小原島 290 300 50 20    
富士川 下山水防倉庫 身延町下山地内 350 100 20   20  
富士川 大野水防倉庫 身延町大野地内 450 190 40      
富士川 塩之沢水防倉庫 身延町塩之沢地内 350 350 40      
富士川 大島水防倉庫 身延町大島地内 370 193 70 35 50 11
大城川 豊岡水防倉庫 身延町小田原船地内 150 272 70 21 50  
合     計 1,960 1,405 290 76 120 11