五、語法

 特に変った語法の見られるのは動詞・形容詞・形容動詞・助動詞・助詞である。
 語彙(い)の部にも山梨県特有の単語がかなり見うけられる。その主なものを品詞別にあげると
(一)名詞
アイサ あいだ ケエシ 鳥の糞
アガリハナ あがり縁 ケーシャク 手入れ
アキネエ 商売 ケゴーズ 洗い流しの汚水
アコイ かかと ケンゴーズ
アサヅクリ 早朝の仕事 ケデエ みの
アッパア ゴーズリ 米をすって減る分が少ない。
アテズッポウ 当て推量、いい加減 コサ 日かげ
アマエエ 雨と雨の間 サキネエ 先刻
アライマワシ 食器などを洗い片つける ジコーシク 非常に
アンベエ 案配、気分、具合い シヨク
イジャル ざる ジョーリ ぞうり
イセキ 婿養子 ジョーグチ 門口
イッチョナカ 仲良し(椿草里) シラックラ しらばっくれること
イドコ 居間 スイロクガ 風呂桶
イト・ウト 間に(そのイトに) セーコ 背負子
イマカジブン 今頃 タダイモ 里いも
イマンコロ タケバシゴ 竹馬(北清子)
ウロ 洞穴 タアコト たわごと
ウラ、ウラッポ 先端、梢 チヤンメエ 血の病
ウラガ 私の家 チャラックラ ふまじめな人
ウナゴージ (蛆うじ) チャノコ 朝食
エーマチ あやまち チョーチョンメー 蝶々
エーソナシ 無愛想 ツイジ 石垣
オーゴ 長子 ヅベラ・ヅボラ しまりがなくずるいこと
オカゾ おかず ツボ たにし
オセエ ドウゴ 道具
オーマクレー 大食い ナツマメ そら豆
オザラ・オダラ 麺類 ニチ 歯ぐき、ねばり、弾力
オシキセ 晩酌 ノウジ 持久力
オジンギ 遠慮 挨拶 ノシイレ うどんの煮こみ
オジャッカ おてんば娘 ノシコミ  
オッケエボー 支え棒 ノノコ 綿入れ
ツッケーボー バサボサ 木の枝の細いもの
オッキョーサマ お月様 ハーキ
オテンタラ おべっか、へつらう ヒキダンバンバ 針きがえる
(針原、丸滝)
オト ビクニン 尼僧
オドロボーキ 竹箒 ヒジキリ だらしのない人
オナベ 夜業 ヒジキリダシ ゆでたうどんを釜から
直接出して食べる
オナケエ ヒジロ いろり
オハシン 針仕事 ヒョーナ ひなどり
オバンシ 炊事 勝手仕事 ビンタク やけどのあと
オモッセ 大みそか フーキンダケ 火吹き竹
オヤコ 親威 ブク 忌み
ガケエ 体格の外見 ホーズ 途法 方法
カサンメーン かたつむり ボッコ ボロ
ガシ 強情 ママ 畑のまわりなどの斜面
カタゴ 竹馬(杉山) マルト 心臓(大垈)
カッチキ 堆肥の原料の木の葉 ミタクナシ 醜い顔
ガレ ミテクリョウ 外見
カワチ 代り(梅平) ムネータ
カンノシ 神主 メカメカ
メカメカドキ
(米倉、古屋敷)
夕暮時
(椿草里)
キビショ きゅうす ヤエンボー
キノーノユンベ 一昨夜 ヤコボシ 古い家をとりこわすこと
キモッキレ 短気 ヨーダチ 夕立
キンジッコ 松かさ(清子) ヨーナゴ 夕食後の間食
クイーガラ くいしんぼ ヨーメシ 夕飯
グシャンポン わからずや ヨーニ 山仕事から背負って帰る荷物
クミヤイ 組合い ヨッピテー・ヨン 一晩中
クレシマ 夕暮れ時(光子沢) ガラヨジュー
クレーヌケ 食べてばかりいて働かない ワデ 上の方
グルイ・グルリ まわり ワンザンゴ 双生児(古屋敷)

以上あげた中にも多数みられるが、この他にも同行内の転化が目立つ

ミシロ むしろ
タノキ たぬき
ソソ
(二)人称代名詞
アノモン あの人
ウラー
ウラントー 私たち
オラントー
オメッチ あなたたち
オメッチャー
コノモン この人
(三)動詞
1、動詞の活用の種類はあまり変わっていないが形式の上での違いがある。未然形には打消しの助動詞「ン」「ナンダ」が続く。(行カン、行カナンダ)
 また打消しの「ネエ」を使って「行カネエ」などとなる。なお未然形に意志、勧誘の助動詞「ザァ」を続けて「行カザァ」となり、疑問の終助詞「カ」「ケ」が結びついて「行カッカ」「行カンケ」(行こうか)となる。また未然形に「ズ」がついて「行カズ」(行こう)という使い方をする。
2、連用形には音便の形がある。サ行を除いた5段活用の動詞にイ音便、ン音便、ツ音便があらわれ、禁止の終助詞「チョ」がつく。「書イチョ」「行ッチョ」「見チョ」またこの下に「シ」をつけて「書イチョシ、見チョシ」として使われる。
 また、推量の「ツラ」がついて「行ッツラ」(行ったでしょう)となる。
3、連用形に「ナッテ」がついて敬譲の慣用語になっている。
オ休ミナッテ  お休みなさい
ゴメンナッテ  ごめんなさい
オアンナッテ  召し上ってください。
4、連体形には推量には推量の助動詞「ズラ」がつく。「行クズラ」、「スルズラ」
 また、この下に「エ、モン、ヨ」をつけて「行クズラエ」「行クズラヨ」「行クズラモン」となって疑問、推量を表わしている。
5、仮定形は条件を表わす助詞「バ」が活用語尾と融合して「行キャア」「スリァア」「コオバ」(来れば)となる。
 カ変の場合は「来(コ)リャア」の他に「来(コ)イバ」「来エバ」という特殊な使い方がある。
6、命令形はカ変は「来(コ)オ」となる。また、その下に接尾語「シ」をつけて「来オシ」となる場合もある。(やや語感をやわらげる場合に使う)
7、第7未然形はこの方言特有のいい方で未来の意志を疑問の形で表わし、疑問の終助詞「カ」を伴う。例「どう書カッカ」「どうシッカ」
8、未然形には打消しの助動詞「ナァ」が結びついて「行カナァ」「ヤラナァ」となる。
9、ナ行5段活用の「死ヌ」は古語の形が残ってガ行に活用する例「死グ」「死ゲ」
10、希望の意味の「……くれ」は転化して「クリョー」「クレチャー」「クンネエ」などといわれている。
貸してクリョー 貸してくれ
話してクリョー 話してくれ
貸してクレチャー 貸してくれ
話してクレチャー 話してくれ
貸してクンネエ 貸してくれ
貸してオクンネエ
話してクンネエ 話してくれ
話してオクンネエ
11、特殊な言葉として
アカラム 熟す カテニスル 相手にする
アキレケール おどろく カマケル 熱中する
アバケル 暴れる カッパロー 刈取る
アラケル 掻きたてる キジャム 刻む
アラス 堕胎する クスガル 刺さる
イイクメル 説得する クッチャグ (目を)ふさぐ
イビル、イグル もてあそぶ クム 交換する 
(崖が)くずれる
イボル 化膿する クラーセル なぐりつける
イケサラン 行かれない クレーソベル ふざける
イッパシル 行ってしまう クレル やる
ウッパシル クンノム 飲む
イラッテ 借りて ケーテ 貸して
ウカゴー 占う 易を見る ケッカル いる
ウッチル する サンジラカス とり散らす
ウッチャラカス 捨てておく ジョール 料理する
ウデル ゆでる ソゾム 涼む
ウノー 耕す ターブレル たわむれる
ウンネル 寝る ダマクラカス だます
エエシロウ 相手にする ツクドレル 崩れる
エンデ 行って ツックム
エベ 行け ツミタクル つねる
エム 熟す ツメジクル
オアンネエ 召し上れ ツッコバス 燃やす
オエル 腐る ドーヅク 折檻(せっかん)する
オサカス 教える トッペエス あやす
オサーカス トンダス 取り出す
オセール ヒッチャバク 破る
オセーラカス 教えさせる ヒッチャル あとへ去る
オシカラカス 押す ブチョーチル 落ちる
オシラカス ブッサロー なぐる たたく
オチョーチル 落ちる ブンダス 出かける
オッコム とがめる為他の家へ行くこと ムクジル 剥ぐ
オッペシコム 押し込む スワグ 座る
オヒンナサル 暮れる