(四)形容詞
1、終止形には「ズラ」「ラ」がつく。例「赤イズラ」「早イズラ」例
 「赤イラ」・「早イラ」またそのあとに「モン」をつける場合もある。例「赤イラモン」「早イラモン」
2、仮定形は条件を表わす助詞「バ」が続いて転化して「リァア」「キャア」となる。例「赤キァア」「赤ケリャア」「早ケリャア」
3、その他特殊なもの
イカイ 大きい シワイ 素直でない
イジレッタイ もどかしい スベッコイ なめらかな
イメエマシイ いまいましい ソゾシイ 涼しい
ウザッポイ
(フザッポイ)
しめっぽい ソボロッテエ うるさい 邪魔物扱い
オーキン ありがとう チックリイ 小さい
オゾイ 悪い チャクイ づるい
カッタリイ 疲れた ノブイ 図太い
ケッタリイ バンケーヒッケー ひっきりなしに、交替に
カエエシイ 可愛い ヒドロシイ まぶしい
クチョオシイ くやしい マメッタイ よく働く
コーシャッポイ なまいきな ミグセエ 恥ずかしい、みっともない
コソッパイ なめらかでない ミダマシイ しっかりとした、りっぱな(仕事、人)
サシイ 久しい ミリッコイ やわらかい
サメシイ さみしい ムルイ もろい
シコーラシイ もっともらしい ヤカナイ うるさい(和田)
シャラウルセエ うるさい ヤタカシイ そうぞうしい
シャーダニ ひっきりなしに ヤブセッタイ うっとうしい
(五)副詞、形容動詞
標準語と変った副詞・形容動詞には次のようなものがある。
イッサラ 少しも デージニ 大事に
イイカン 大体いい加減に テッキラ てっきり
イヤンベエ 丁度良い デッポーケー でまかせ、でたらめ
ウント 大変に テンズケ 一番はじめ
ウデッキリ 一生けん命 ナンチョウニモ なにとぞ
エーカン かなり、よほど ネッコサラ あとかたなしに
エーカラカン いいかげん ハダッテ わざわざ
エーカラカゲン  ハンデ 早く
オオケンニ おおよそ バンテンケーシ 代る代る、交替に
オオナト 故意に ホータラ 腹いっぱい
オメエサマ 思う存分 マット もっと
ガトオ あまり ムクテツ 全く
キナリニ 気ままに ムショーニ 急に
ジコーシイ 沢山に メタ・メタメタ 度々
シャアシャアシイ 図図しい顔をして ヤクヤク わざわざ
シャアダニ ひっきりなしに ユックラ ゆっくり
ズデエ まるで、全く ヨーヤラヤット やっと、ようやく
ズデエコデエ ロクッタマ ろくろく
セエセエ たくさんだ ワザット 簡単に
チョックラ 少しの間に    
(六)助動詞
 
1 可能を表わす「サル」は特殊な使い方がされている
行ケサル 行ける
起キサラン 起きられない
起キサレン

2 使役の意味をもつ「セル」「サエル」は「カス」「カセル」となって使われる。
届ケラカス 届けさせる
届ケラカセル

3 意志や推量には「ズ」「ザァ」「ズラ」「ジャア」等が使われる。
行カズ 行こう
行カザア
行カジャア
行ッツラ 行ったでしょう
行クズラ 行くでしょう
行クラ
 この「ラ」「ズラ」には「ヨ」をつけて使われることもある。
行ッツラヨ 行ったでしょうよ
  
4 打消しの意志、推量の「まい」は「メエ」となって使われる。
行クメエ 行くのはよそう、行かないだろう
ヤルメエ やらない、やらないだろう
  
5 希望の助動詞「たい」は「テエ」と転化して使われる。
クイテエ 食べたい
  
6 断定は語尾に「ジャン」「ジャンカ」「ジャンケ」がついて強調、同意、勧誘の意味を表わす。
イイジャン いいじゃないか
行クジャンケ 行こうじゃないか
行クジャンケ 行こうよ、行くじゃないの
     
(七)接頭語について
 接頭語は種類も、使われる場合も非常に多い。そのため、言葉が荒々しく感じられるが、その反面親近感もうかがえ、素朴な味わいもある。
 種類はナ行、マ行、ワ行を除いた各行にわたっている。
○ア行
イッパシル
 ウッチグ(死ぬ)ウンナゲル、ウンネル、ウチックウ(食べる)ウックレル、オッタマゲル
○カ行
カットバス カッソグ
クンノム
ウルサイ、ナマイキ、バカ
○サ行
シャラミグセエ、シャラウルセエ
シンノブイ ショッピク
バカ スッコム スッコケル
ソックビ ソップリ ソンブリ
○タ行、ダ行
ダダッピレエ
ツックンダ ツッコビル ツンノメル ツッペエル ツッケエス ツンニゲル
トッペース トンノケル トンダス
○ハ行、バ行
ヒッタクル ヒッポカス ヒンマゲル ヒンワスレル ヒンヤスム
フンジバル ブッタクル ブンナゲル ブッタタク ブチカアル ブットバス
ナク
○ヤ行
ヨリイル
 以上身延町で現在も使われている方言を集めたが身延だけで使われているという特殊なものは見当たらない。しかし、身延町を中心とする一帯で使われ、河内方言の特色をはっきり備えていることがわかる。
 身延町の方言の特色について考えてみると、長い住民の生活の歴史が生み出した素朴な味わいと、苦しみの中からにじみ出た語気の荒さなどがうかがえる。
 地理的条件の他に、町民の心の中に根強く残っている封建的な因襲や伝統にも影響されて、古い特殊な方言が残っている。
 特に接頭語が多く、言葉が荒々しく感じられるのは、恵まれなかった祖先の生活の歴史を物語るものであろうか。交通の便に恵まれず、狭い耕地を生活のよりどころとしていた祖先の歴史の所産であることを考えると、方言にもまた捨て難い味わいを感じさせられる。