印刷【国宝】絹本著色夏景山水図

kakeisansuizu.jpg

指定日:昭和30年6月22日
所在地:東京国立博物館
所有者:久遠寺
時 代:北宋 12世紀
大きさ:縦126.9cm、横54.5cm
備 考:『身延山久遠寺史料調査報告書』

概説

 本図は絹地に淡彩で描かれた軸物で、京都金地院にある秋景、冬景二幅(春景は不明)とともに、四季山水図四幅対の別れたものであろうと考えられる舶載品である。本図には三顆の印があり「仲明珍玩」「廬氏家蔵」の中国印であり、「天山」は足利義満(三代将軍)の鑑蔵印である。京都金地院の二幅とともに足利将軍家の旧蔵品であることがわかり、『御物御画目録』の「四幅 山水 徽宗皇帝」に相当するものと考えられている。作者は中国北宋の徽宗皇帝と推定されるが確証に乏しいとされ、また「胡直夫筆」という伝承もある。
 箱書きから寛文12年(1672)遠州浜松の太田資宗から、久遠寺に寄進されたことがわかるが、それ以前については明らかでない。箱の銘文は外箱蓋表に「奉寄進/掛繪―軸/太田備中守源資宗」、内箱蓋裏に「奉寄進掛繪胡直夫筆一軸并法華二十八品和歌後陽成院震翰親王諸家」とある。
 図柄は夏景とあるように、左下に大岩石と松の大樹をかき、右下谷底には小さい渓流にかかる橋の上に、長い杖をひく一道士が首をひねり、悠然と歩を運ぶ姿と山中の景観が、黒筆の濃淡とわずかな淡色でえがかれている。なお画面全体を仔細にみると、一陣の風雨が嵐気をよんで山容全体を包み、岩上の松や道士の冠のひもあるいは袖や裾まで、強くなびいていることに気づく。また山間の上にわずかな淡朱色がぼかされて、夕陽の名残りかと思われるものもみとめられる。これらの総体の画面からうける感じは、松風の音、谷川のひびき、はためく冠のひものうねりにまで耳を傾け、山中の静けさのなかにおきたこれら山水の声を深く楽しむ高士の自然と同化した詩情が迫ってくる。
 北宋画の謹厳剛直さと南宋画の余白暗示的な両画法が形式化される以前の、写実的な作風のなかに詩情を豊かにうたった主情的な作品で、中国宋代絵画史上のなかにおいて品位の高い優れたものとして著名である。
 昭和40年に補修している。

お問い合わせ

担当:生涯学習課
TEL:0556-20-3017(直通)