印刷鉱山道具と鉱山臼

鉱山道具について

湯之奥金山遺跡からは鉄製工具類がわずかに出土している。これらは、鋸の破片、金鋏、鶴嘴(つるはし)などであるが、現地には近年木材伐採などが大規模に行われていることもあり、これらが金山操業時の所産かどうかは不明である。
遺跡学術総合調査の際、出土した金山道具や、湯之奥門西家に伝承品として保管されていた木製の道具(フネ、セリ板)などについては、日本各地で確認事例が極めて少なく、名称や使途などについて判然とせず、金山研究者の間において議論が交わされてきたが、これらの資料の解析については江戸時代の絵師・佐々木藍田が描いた「金沢御山大盛之図」に負うところが大きかった。
この鉱山絵巻には、叩き石や、挽き臼の手前に置かれた鉱石を入れたフネや、泥状になった鉱石が流れ出たところに置かれたセリ板など、どのように使用されたかが克明に描かれている。
また、描かれた道具類が、出土品のそれと一致していたことから、湯之奥金山博物館の展示構成や復元模型に非常に有効な手がかりを与えてくれたものであり、また、金山研究の足がかりを作った大変貴重な資料として、現在、岩手県大槌町の文化財にも指定されている。
セリ板に関しては、湯之奥金山調査当時には全国で15枚しか確認されておらず、また、そのうちの11枚が門西家から発見されていたものであった。遺跡学術調査から数十年、鉱山研究が以前よりもずいぶん進み、セリ板発見のニュースも各地から届くようになった。

鉱山臼

鉱山臼は鉱山経営にとって重要な役割を果たし、必須の道具であった。戦国時代から江戸時代全般を通して鉱石の粉成作業に必ず使用したもので、現在も北海道をはじめ、本州各地の鉱山跡から出土しているが、鉱山臼には様々なタイプがあり、地域によって、あるいは時代によってそれぞれ特徴のある臼が出現している。上臼と下臼を重ねて回転させる穀臼型の挽き臼が主体の鉱山もあれば、搗き臼専用の鉱山もある。回転式の挽き臼を「金挽臼」という。湯之奥金山で確認された金挽臼を「湯之奥型」、黒川金山で確認された金挽臼は「黒川型」と名付けられた。それぞれの金山から発見された特徴的な臼として、両金山名を冠とした名称である。それ以外の全国的に展開した臼を「定形型」とし、金挽臼は大きく3形式に分類することができる。
日本の鉱山の中でもっとも有名な佐渡金山は、挽き臼と叩き石が主体で、特に大きな金挽臼は見ごたえがある。タイプとすれば定形型である。江戸初期ころ、世界有数の銀の産金量を誇った石見銀山では挽き臼の代わりに「要石」と呼ばれた磨り臼が主体であった。こうした特徴はそれぞれの鉱山から採掘された鉱石の相違によって生じたと考えられている。

湯之奥型

usu

湯之奥金山には「湯之奥型」と命名された特有の鉱山専用の挽き臼がある。
この臼は微細になった鉱石を落とすための供給孔が軸受け孔とは別に設けられており、大きさもやや小さい。当時の製粉用穀臼が原型であったのだろう。南部町十島金山や静岡県土肥金山でも、資料点数それぞれ1点ではあるが、確認報告がある。鉱山臼の初期の形態で、湯之奥3金山以外での大量確認はできていない点から分布範囲は限定され、また使用期間も短い。

 

黒川型

kuro-usu
塩山市黒川金山に特有の鉱山臼。上臼中央の軸受け孔を鉱石の供給孔にも併用するもので、軸が供給孔の内壁に納まる。供給孔内壁に確認される軸位置は単数~複数個所と臼によってそれぞれ。偏心で臼の磨り面が方減りしやすいが、軸位置を変えることでその点を解消しながら使用されていた。福井県大野市の金山や兵庫県中瀬金山、岐阜県神岡鉱山など湯之奥型と比べ、比較的広範囲に分布している。

 

定形型


上臼中央に設けられた孔の内部に「ワカネ」という軸受け補助具をはめ込み、軸の固定と鉱石の供給を併用した形式の鉱山臼。江戸初期ころに開発され、使用範囲は全国的となった。湯之奥型や黒川型よりも大型であるため、重量がある分、粉成能力は湯之奥型・黒川型よりも高い。

 

搗き臼

tukiusu 

鉱石を叩くために置く台石状の臼。この上に鉱石を載せ、大づちや搗き石で砕いていく。初期粉成作業で重要な役割を果たす。杵状のものや水車などの動力も利用された。湯之奥・佐渡・土肥・石見などの全国の金銀山で使用されている。 
杵を利用する場合は、搗き石を受ける搗き臼を地面に置き、その上に鉱石を置く。杵の先には搗き石が備え付けてあり、杵を足で踏んだり離したりを繰り返すことで上下し、搗き石が鉱石を叩き砕いていく。

 

磨り臼

suriusu
鉱石を磨りながら微粉化するための偏平で大きな台皿状の臼。磨り面に粗砕きした鉱石を置いて水を加えながら、片手で握ることのできるくらいの持ちやすく、磨り合わせの良い磨り石とセットで利用した。湯之奥金山や黒川金山、さらに安倍(梅ヶ島)金山や津具金山など、で確認されている。

← 前のページに戻る