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身延町生まれ。小学校卒業後に県外の中高一貫校へ進学。高校、大学、4年間の社会人生活を経て、2021年に身延町にUターンした。実家は、身延山久遠寺の門内で100年以上前から参拝客を迎えてきた「旅館 山田屋」。家業を手伝いつつ、いろいろなことに挑戦中
身延町生まれ。高校卒業後に料理人修業のため県外へ。日本料理店と寿司屋での4年間の修行を終えて、2022年にUターンした。実家は、身延山久遠寺の門内で大正3年から続くうなぎ料理店「玉川楼」。現在5代目となるべく、4代目のもとで修業中。
長野県松本市生まれ。2020年、身延町役場への就職を機に移住。身延町での生活は5年目を迎え、消防団でも活躍している。現在は、産業課に勤務。
望月)望月太智、32歳です。好きな瞬間は、1日の仕事を終えた後、外に出て星空を見上げているとき。身延は余計な光がないから、星が本当にきれいに見えるんです。特に冬の夜空は最高!10秒ほど眺めていると、1日の疲れが吹っ飛びます。

坂本)坂本涼馬です。25歳です。3年前に戻ってきました。自分が好きなのは、まちの行事とかの後にある反省会とかお疲れ様会。いわゆる打ち上げなんですけれど、今、どこへ行っても自分が一番下なので、そういう会に出ていると、改めて近所の方や先輩方の優しさを感じるんです。こんなに優しくしてくれて、愛されているんだなぁって、最高の気分になれます。
木内)木内悠です。24歳です。身延町役場で働いています。好きな瞬間は、坂本さんとちょっと似ているんですが、そもそも僕は外から来た人間なので、イベント事やたまに誘ってもらえる飲み会で、いろんな方とお酒を飲んでいるときが、一番好きな瞬間です。
望月)僕は、小学校までは身延で育ったんですが、両親が「子どもは外へ出て学んできなさい」という教育方針だったので、中学から静岡の中高一貫校に行って寮生活をし、そのまま東京の大学に進みました。それで、大学4年の時に浅草で人力車夫のバイトを始めて、それがすごく楽しかったので、そのまま就職しました。基本は、浅草に来る観光客を人力車に乗せて、ガイドをしながら案内していたのですが、全国に店舗があったので、京都の嵐山、北海道の小樽、九州大分の由布院でも人力車を牽きました。やりがいがあって、毎日が楽しくて、自分としては天職だと思って働いていたんですが、コロナ禍で浅草から人影が消え、人力車のお客様もまったくいなくなって…。同じ時期に、身延も厳しい状況になったので、家業を助けるために2021年に戻ってきました。
坂本)実家は、久遠寺の門内で110年以上続くうなぎ料理屋です。自分はこの店を継ぐのが嫌じゃなくて、むしろ使命のように思っていたので、高校生の頃には料理人になって親父の後を継ごうと決めていました。それを親に話したら、高校卒業後に働く場所を決めて、全部手配もしてくれて、この仕事を継ぐんだったら、まずは外に出て修行して来いと。それで、「じゃあ行ってみようか」と思って、まずは千葉の日本料理店に行き、その後、銀座の寿司屋に移って修行して、3年前に戻ってきました。
木内)僕はお二人とは違って、身延ではなく長野県松本市の出身なんですが、地元に残って仕事をするのはあんまり面白くないなとずっと思っていました。行き先にこだわりはなくて、正直どこでも良かったのですが、たまたま、高校卒業後に公務員を目指して専門学校に通っていた時に「ゆるキャン△」が流行っていたので、聖地だし身延に行ってみるかと。それで、採用試験を受けることにしました。実は、コロナ禍の影響もあって、合格後に初めて身延に来たんですよ。そうしたら、思った以上に田舎だったんで、びっくりしました。ただ、だからといって辞退するつもりは全然なくて、そもそも、僕自身、田舎の方で生まれ育ったので、都会で働くという選択肢はなかったし、それよりも、知っている人が誰もいない土地で暮らしてみたいという思いが強かったんで、身延で働こうと決めました。
望月)涼馬の家もそうだけど、うちも古くから久遠寺の門内で旅館をしてきていて、僕自身、明確な意識があったわけではないものの、頭のどこかで、いずれは戻ることになるだろうなとは思っていました。小さい頃から刷り込まれていたから、いずれ自分が家業を継ぐんだという使命感もありましたね。なので、そのタイミングがコロナだったという感じです。正直、前向きな気持ちで戻ってきたかと言われたら、100%そうだったとは言えないし、もしコロナが無かったら今も人力車を続けていたかもしれないとは思いますが、今は、ここでできることを精一杯頑張っているという状況です。
坂本)僕は、4年修行してきて、ふっと「もういいかな」って思ったんですよ。身延が恋しい気持ちもありましたね。東京って、一歩外に出るとみんな他人、隣の家の人すら知らないという感じなので、そろそろ知っている人がいるところに戻ってきたいな、みたいな。まあ、言ってみれば、甘えですよね。だから、何か特別な理由があったわけではなくて、もうそろそろ帰ってもいいかなと思ったから帰ってきたという感じです。

望月)なんか、涼馬の言うこと、わかる気がする。深く考えれば考えるほど、帰ってくる理由って無くなっちゃうから、計画的に何年たったら帰って来るなんていうのは現実的じゃないよね。それこそ、親が倒れたとか、コロナ禍とか、そういう大きなことがあればきっかけになるだろうけど。そういう意味では、勢いって大事だと思いますね。
木内)僕にとって身延は知らない町だったけれど、来ると決めたときも、実際に来た時も、不思議と不安はなかったですね。それこそ、勢いで来ちゃったんで(笑)
望月)家業とはいえ実際に携わったことはなかったから、帰ってきた当初は、戸惑いや不安がありました。「大変だ」「きつい」というのが正直な感想でしたね。いち従業員から始めて、徐々に僕が中心となってやらせてもらう部分も増えてきて、それに比例するように、やりがいを感じる場面も増えています。また、毎年、家族でいらっしゃる方、団体で来られる方、二代三代と続けて来てくださっている方…。うちの旅館に泊まってくださる方々の大切な機会に触れさせていただいて、お客様のありがたみというか、こうやって山田屋が支えられてきたんだなということを、感じるようにもなっています。
一方で、身延にも転換期が訪れていて、今までのやり方だけじゃダメなんだなというところも見えてきました。僕は長らく身延を離れていた分しがらみに縛られることが少なく、積極的に新しいことにチャレンジできる立場だと思うんですね。だから、昔から来てくださっているお客様を大切にしつつも、これまでとは違う目線で、例えば、インスタグラムで動画を配信して集客につなげるといったことにも挑戦するなど、何か新しい方向性を見いだしながらやっていければなと思っています。
坂本)自分は飲食店なので、やっぱり、お客さんが「美味しい」って言ってくれて、「また来よう」って思ってくれれば、それが一番嬉しいですね。そういう小さな幸せが本当の幸せなのかもしれないなって、最近思うんですよ。うちの場合、立地的に、このお店を目当てに来てくれる人は少数派で、むしろ、身延山に参拝に来て、たまたま食事処がここにあったから寄るというお客さんが多いんだけれど、そういうお客さんにも、「身延にもこんなに美味しい店があるんだ」とか、「そんなに期待していなかったけど、ウナギもカレーも美味しかったね」とか思ってもらえたら、それはすごく嬉しいですよね。それでさらに、身延山に来たときは、いつもここに寄るみたいになってくれたら、それこそ最高ですね。
今、門内商店街の飲食店が減ってきていて、このままだとせっかく来てくれた人が食事をするところが無くなっちゃうし、地元の人も外食がしにくくなっちゃうかもしれない。それはあまりにもさみしいので、早く一人前になって、親父と一緒に続けていかなきゃなと思いますね。
望月)都会で暮らすより、確実にストレスは少ないと思います。特に、暮らす上での人との物理的な距離感が、適度にあっていいですよね。実際、僕は今東京に行ったら、電車に乗れないですよ、山手線とか混みすぎだし、朝とか夕方とかみんな顔が死んでいるし。東京にいた頃は普通に乗っていたけれど、山梨に帰ってきて車で移動するようになったら、絶対電車に乗りたくないと思うようになって、今も毎月1~2回東京へ行くんですが、最近は車で行くようになりました。その方が気持ちが楽なんですよ。でもそれは田舎に帰ってきたからわかったこと。気づかずにいたけれど、東京にいた頃は結構ストレスを抱えて暮らしていたんだなぁと思いますね。
坂本)自分も職場が銀座だったんで、毎朝満員電車に乗って職場に行って、ほぼ終電で帰るという生活でした。東京って、家賃が高いじゃないですか。だから、ちょっと離れたところにアパートを借りて住んでいたんですよ。それもあって、せっかく家賃を払って借りているのに、アパートの部屋では寝るだけ。確かにお金は稼げるけれど、その分生活費もかかるし、周りに豪華なものとかがたくさんあるから、欲しくもなる。友だちとの付き合いで見栄を張りたいときもあって、貯金なんて全然できませんでした。もちろん、都会は楽しいし、魅力的な面もたくさんあるから、どっちがいいかは人それぞれかもしれないけれど、暮らすのが大変なのは間違いなく東京だと思いますね。

木内)田舎だし、不便なこともありますが、じゃあ何が不便かと言えば、コンビニが遠いとか、ウーバーイーツがないとかなので、実際は大して困らない。「郷に入れば郷に従え」じゃないですけれど、住んでいれば大抵のことは受け入れられるし、気にならなくなりますね。
逆に、車さえあれば、東京も、静岡も、松本も2時間程度。身延ICから高速に乗って、そのまま快適なドライブをしながら気軽に遊びに行けるアクセスの良さは、大きな魅力だと思います。
望月)身延の人って、知らない人もすんなりと受け入れちゃう人懐っこさとか、あたたかさがあると思うんですよ。人間関係で悩んでいるという話は聞いたことがないし、外から入って来る人に対しても、容易に受け入れる寛容さがあるというか。

坂本)消防団にも地域にも、リーダー的な存在がいて、そういう人が新しい人にも声をかけて、飲み会に誘ったりするよね。あんまり壁もなくて。木内も、もうバッチリ馴染んでいるよね。
木内)僕は言ってみれば余所者なので、誘われもしないのに自分からグイグイ入って行くというのは正直難しいです。でも、身延に来てから地域の方からも誘ってもらえる機会が結構あって、そういうときは、自分も楽しんだ方がいいと思って、遠慮なく楽しませてもらっていますし、消防団も楽しいです。
坂本)それがいいんだよね。地元がいくら受け入れたいと思っても、入ってきた人が遠慮していると、なかなか壁が崩せない。双方歩み寄ってこそ、良い関係が作れるんだから。
木内)優しいなとも思います。僕もたまに若気の至りみたいなことがあるんですが、なんだかんだ言って許されているし、逆に心配してもらうことの方が多いです。

坂本)そんな失敗も受け入れてくれるのが、身延の良さ。良い意味で、人と人との心理的な距離がすごく近いんですよね。自分はそこが好きですね。あと、さっき太智くんが、夜空がキレイだと言っていましたけれど、他にも、空気がきれいでおいしいとか、水がおいしいとか、自然が豊かだとか、外から来た人が言うことって、以前は当たり前のこと過ぎて魅力だなんて思わなかったんですけど、一回外へ出て帰って来ると、これは貴重なんだと。守っていかないといけないなと思います。
望月)それと、ここには身延山があるじゃないですか。僕は浅草で人力車にお客さんを乗せて牽いていたんですが、それこそ日本全国から、あるいは外国からもいろんな観光客が来るんですよ。それで、ガイドをしながら、自分が身延山久遠寺のある町の出身だという話をすることもあったんですが、ほとんどの方が、久遠寺を知っているんですね。「久遠寺の桜きれいだよね」とか、「みのぶまんじゅう、好きだよ」って言ってくれた人もいたし。ああ、そんなに有名なんだと実感しましたね。そして、そういう身延山がここにあるおかげで、日本全国からも、諸外国からも、ここに来てくれる人がたくさんいる。ここは山の中だけれど、いろんな人が来てくれるから、いろんなつながりができるんですよ。なので、他の田舎じゃ味わえない人との交流が楽しめるのも魅力かなと思います。
木内)僕は、身延町ってゆるキャン△以外に知らなかったんですけれど、来てみたら、年間を通してかなりの観光客が来るのでびっくりしました。特に桜の時期は、すごい数の人が来るじゃないですか。外国人も多いし、いつもは閑散としている電車が、ぎゅうぎゅう詰めになるし…。本栖湖もアウトドアスポットとして人気があるし、あとはやっぱりアニメのモデル地巡礼。いろんな顔があって、いろんな国のいろんな年代の人が来る。そこが身延のおもしろいところだと思います。

望月)帰って来て気づいたんですけれど、うちも含めて、町内で働いている人が想像以上にお年を召してきていて、70代以上の人も多いんですよ。元気に見えても、80歳を超えるとさすがに働けなくなるじゃないですか。いよいよ人手不足が深刻になっていて、働いてくれる人を探さなきゃいけないんだけれど、残念ながら、町内には働き手があまりいないんですよ。うちは、幸い、ゆるキャン△で移住してきた人が喫茶店を手伝ってくれるようになったので助かっているんですが。なので、例えば、「身延いいな」「田舎で暮らしたいな」なんてフワッとした感じで来ても、案外仕事はあるし、求められているとも思います。
木内)僕、来たばっかりの頃に、町内のいろんな場所を巡ったんですよ。そうしたら、いろんな発見があったり、地域の人と交流できたりしたんですよね。だから、まちを散策してみるのがいいんじゃないかなって思います。身延町も広いから、いろんな顔があって、いろんな人がいる。例えば、身延山周辺は神社仏閣が多くて、修行僧が歩いていたり、宿坊で修行体験できたりするし、西嶋の和紙の里は、和紙漉き体験ができたりしておもしろいし、本栖湖まで行けば、すごくきれいな水の中でウォーターアクティビティが楽しめます。いろいろと体験しながら地域の人とも交流してもらって、まずは身延のことを知ってもらうのが一番だと思います。

坂本)僕は、一緒に身延を盛り上げていけるような人、同年代の仲間が増えてくれたら嬉しいですね。
木内)自分のペースで生活したい人に合っているんじゃないかと思います。人間関係のストレスがあまりないので、ゆっくりと自分のペースで生活できるんじゃないかな。
望月)自分探しがしたいっていう人にも、向いていると思います。飾らない人に囲まれてありのままの自分で過ごすことで、新しい自分に出会えるかもしれません。
