音楽活動を続けながら、地方でスローライフを楽しみたい
佐藤さん夫妻
佐藤慶吾さん・亜由美さんご夫妻と長女の美寿々ちゃん。佐藤さんご夫妻はともにミュージシャン。身延町樋田の古民家を購入して神奈川県茅ケ崎市から転入したのは2011年7月。「地方でスローライフを満喫したい」という夢をかなえた

佐藤さんご夫妻はともにミュージシャン。パーカッションのサポートミュージシャンである慶吾さんは、男性デュオ「キマグレン」などのライブに参加した経験があり、亜由美さんは「Comugi」の名でCDを出したり、各地でライブ活動を行う傍ら、ヨガ教室を開いたり、環境イベントのMCを務めるなど、多彩な活動をしてきました。
そんな2人には、かねてから「音楽活動を続けながら、地方でスローライフを楽しみたい」という共通した夢がありました。当初は長野県や千葉県などの空き家を探していたそうですが、ある日、インターネットの「空き家バンク」で検索したところ、身延町の古民家がヒット。早速、この地を訪れました。佐藤さん夫妻は「それまで山梨には温泉旅行で来たくらい。どんな所なのか想像がつきませんでした」と振り返りながら、第一印象について、亜由美さんは「空き家を訪れた季節は4月。桜がとてもきれいで、樋田川のせせらぎの音も心地良かったです」と話し、慶吾さんは「家の保存状況がとても良かった」と、居住することを即決したそうです。
購入した住まいは、築80年ほどの古民家。木造2階建てで、間取りは6DKです。「自分たちが理想とするライフスタイルに近づけたい」と、慶吾さん自らが“大工さん”となって一部をリフォーム。現在も2階部分の改修を進めています。特に注目すべきなのが、省電化、省エネルギーを進めている点。台所には一斗缶を組み合わせた「ロケットストーブ」があり、電気やガスを使わずに調理しています。「台所の家電で買ったものは精米器のみです」と亜由美さん。トイレはコンポスト式で、し尿はEM菌などを利用して、自家栽培している野菜の肥料として利用。居間を温めるのに活躍しているのは薪ストーブです。「電気代は月900円程度。それでも不便さはあまり感じませんし、心豊かな暮らしが送れています」と佐藤さん夫妻は笑顔を見せます。
住み始めて8カ月後の今年3月、待望の赤ちゃんが誕生しました。長女の美寿々ちゃんです。過疎化が進む同地区において、「赤ちゃんを見るのは久しぶり」という住民の方も。「『この子は樋田の宝だ』といって娘を可愛がってくれる方も多く。本当に温かい人ばかり。近所付き合いも深まっています」と慶吾さんは話します。
新生活を楽しみながら、佐藤さんご夫妻は地域の活性化についても、考えてきました。「豊かな自然に囲まれた空間にこそ、物事を自由に発想し、人間同士のつながりを深められる環境がある」―。そして2人の呼び掛けで9月から始まったのが「みのぶ手のひらマーケット」です。会場は身延町総合文化会館の芝生広場。町内外の団体や個人がブースを構え、食べ物やクラフトなどを販売したり、フリーマーケットを展開。初回の9月16日、会場は多くの人でにぎわいました。「手のひらマーケット」は、今後も毎月1回のペースで行う計画にしており、佐藤さん夫妻は「多くの方が集まる恒例行事にしたいです」と話しています。
さらに、佐藤さんご夫妻の夢は膨らんでいます。同町と富士川町の境にある1000坪ほどのスペースに、自然食品や天然酵母のパン、クラフト作品などを販売する店を構えようと準備中で、来年3月のオープンを目指しています。「セレクトショップ風な店をコンセプトの中心に考えており、妻がヨガ教室、私がリズム教室を開催したりすることも視野に入れています」と慶吾さん。「身延町や富士川町には、都会から移り住んで芸術活動に励む方がおり、そうした方々と知り合うことができたので、染め物やクラフトなどのワークショップもしてみたいです。子どもたちが自然の中で学び遊ぶ『森の幼稚園』も構想にあります」と目を輝かせました。
都会では味わえなかった暮らし。佐藤さんご夫妻は「身延に来て本当に良かったと思います」と話し、最後にこう結びました。「これからも住民の方々とさらに交流を深め、田舎暮らしのメッセンジャーとして『心の豊かさとは何か』を多くの方々に発信していきたいです」。
購入した古民家は築80年ほど。昔ながらの部屋は、現在建築とは異なる温かみにあふれている
居間を温めている薪ストーブ
部屋の中にはハンモックも
身延町に転入後に生まれた美寿々ちゃんは8か月。地域の人から「樋田の宝」と言われ、アイドル的な存在だ
近くの畑では野菜を栽培している
ミュージシャンとしてライブなどで活躍する佐藤さん夫妻
ミュージシャンの傍ら、ヨガの指導もしてきた亜由美さん。「身延でもヨガ教室をしてみたい」と話す